黒き河を往け

黒き河を往け (ジグザグノベルズ)

黒き河を往け (ジグザグノベルズ)

Claymore
http://www.claymore-online.net/

上記サイトで連載されていた作品が、ZIGZAGより出版されたもの。ネット小説『暁の大地』でも有名なサイトですね。

舞台は19世紀ロンドン、けれど〈術式〉なる不思議な力がある世界。チャリオット探偵事務所のやる気なし所長兼唯一の探偵ラウディと、強気で好奇心満々の押しかけ姪っ子事務員・赤毛の少女シルーズ。二人の元には、失せ物探しから殺人事件まで、大小様々な依頼が舞い込んでくるのだが……。


霧が煙り、黒いテムズ河の淀む19世紀ロンドンでの探偵稼業。てなだけで食指が動いてしまうんですが、一味違うのは〈術式〉なる魔法の存在。とはいえ〈術式〉は万能の力ではないうえ、科学隆盛の今では廃れかけた技芸。例えば、探偵ラウディの使う「失せ物探し」の術式は、前もって情報を仕入れないと使えず、間違った情報を知ってしまうだけで精度が落ちる代物。こういう匙加減が素晴らしいのですなあ。シルーズの元気っぷりや、騎士道に拘るロンドン警視庁*1のアバーライン警部がいい味出してます。

Case1「それは悩める者のために」は、失くした指輪探しの依頼。簡単な捜索のはずが、事件を追ううちに裏事情に踏み込む事に……。まずは世界観の紹介もかねて導入編ですね。
Case2「フィンガー・コレクター」は、霧のロンドン名物・切り裂きジャック事件。被害者の一人の父親から犯人探しを依頼され。辿り着いたほろ苦い結末とは。
Case3「機関の女王」は、ネット上では発表されていない書き下ろし。チャールズ・バベッジの階差エンジンがテーマ。しかも、オーガスタ・エイダ・バイロンも登場するという贅沢な一品*2。数学・コンピュータ史好きにはたまりませんな。

今後にも期待してますよ、藤村脩さん。

*1:スコットランド・ヤード! おお、懐かしい響き!

*2:挿絵上は彼女が一番可愛かったなあ。