象られた力


象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)


□Laterna Magika SF作家 飛浩隆のweb録
http://d.hatena.ne.jp/./TOBI/


『グラン・ヴァカンス』は速攻で譲渡リスト入りしてしまったので、買い直し。
というわけで、傑作集『象られた力』から読破。


・「デュオ」
ある人物の手記の形をとって描かれた、双子の天才ピアニストの物語。冒頭から、誰かが「かれ」をころしたことを告白し、以後双子のピアニストのデビューまでが語られるのですが。魔術的な音楽の秘密は、周囲の思惑と絡み合い、思いもよらない落着を見せて収束します。この作品だけじゃないですが、官能的な描写が快い。


・「呪界のほとり」
"回廊"から外れてしまった男と小竜は、孤立した惑星で老人と出会うが……。お話は形而上的な面もありますが、ユーモラスな人物描写が和らげています。"歴史的事実"の解釈をたてに、男に案内役を押し付ける爺さんがお気に入り。小竜もかわいい。モラル・マルチプレックスなるイーガン的な小道具も登場してます。


・「夜と泥の」
人類が宇宙に拡散している遠未来。テラフォーミングされた惑星ナクーンの沼沢地で、夜な夜な"生じる"一人の少女。美しいイメージを喚起させる文章力は見事の一言につきます。主人公は友人に誘われて沼へ赴き、少女の萌芽に立ち会うのですが……? 浸蝕感溢れる構図の妙には脱帽。


・「象られた力」
SFマガジン88年の9月号・10月号掲載分を、追加パートを含め大きく改稿。
惑星"百合洋"(ゆりうみ)が謎の消滅を遂げて一年。近傍の惑星シジックのイコノグラファー・クドウ圓(ひとみ)は、情動を喚起する百合洋の図形言語に秘められた"見えない図形"の解明を依頼される。だがそれは恐ろしい災厄の前触れに過ぎなかった……。
Amazonで絶賛されていますが、終盤での森羅万象の崩壊は、眩暈すら覚えるほど圧倒的。作者が追い求める「かたち」と「ちから」の関係を体現する代表作といえます。SFに親しくない人にも是非読んで欲しい逸品でした。