毒入りチョコレート事件

アントニイ・バークリーの名作。カバーはG.フィッツジェラルド画「偶然の審判」。
ベンディックス卿夫妻は友人宛に送られたチョコレートの新製品を試食したところ、夫人は死亡、夫は一命を取り留めた。犯人は誰か? その意図は?


事件は単純ですが、解決までの仕立てが凝ってます。なにせ、警察が匙を投げた迷宮入り事件に対して、アマチュアの犯罪研究会の会員6人が各々の解答を皆の前で発表していくのですから! 発表ごとに論理の穴が検証され、次の発表者はその討議を下敷きに、各人ごとの斬新な視点を付け加えて新たな説を唱えていきます。この重層性、本格性。そして最後の発表者は、これまでの説を総括し、ある意外な人物を指摘するのです……!


証拠立てとかは説の発表時に読者に提示されるので、次から次へ視点が変わるごとに、事件の姿が移り変わって見えるのです。転換の鮮やかさに脱帽。そして、いわゆる"推理"が実はどれだけ恣意性を含むものか、との最後の指摘には唸らされます。誰もが己のやり方で、思考パターンで犯人を追う。それが落とし穴となることもあるのですねえ。
いやあ、良いミステリでした。